書評『教養としてのアート 投資としてのアート』

『教養としてのアート 投資としてのアート』(徳光健治氏)を読了したので、書評を書いていきたいと思います。

 

教養としてのアート 投資としてのアート

教養としてのアート 投資としてのアート

 

 現在のアート業界が何を考えて、現代アートを評価しようとしているのか、アート業界の潮流をざっくりとわかりやすくまとめた批評でした。
事実やデータというよりも、筆者の経験や知見からの直感的な評価という内容ですが、私が持っているアートに対する思想と共通するところもあり、非常に面白かったです。

 

現代アートの評価軸は「発明品」であること


現代アートとは何を基準に評価されるのか、それを徳光氏は「コンセプトが新規的であること」「美術史上の発明品であること」と説明しています。
最近作品を見る機会が増えるにつき、今自分が見ているアートが美術史上の文脈のどこに位置づけられていて、作家は何を新しい表現として試みようとしているのか、そういった観点で見ていこうと思っていたのですが、それはまさに発明品という言葉にぴったりだと思いました。
では、アート作品の「コンセプトが新しい」とどうやって評価されるのでしょうか。

それは概ね美術評論家であったり大手アートオークション会社が評価付けをするわけです。

しかし、美術評論家とオークション会社は密接な関係性を持っています。

そして、価値を評価する者と作品を売る側が一致しているというのは構造として不自然です。徳光氏はこの構造をシンジケートが価値をつくっている、まさに「インサイダー」の構造であると指摘しています。まさに。

東証が投資家に公正中立であり、強力な規制により投資家間の情報の平等化が図られているからこそ、公正な取引ができるのでありますから、美術業界の構造は単純に言ってしまえば東証が株の価値を決めているような構造となってしまうっているわけです。およそ公正透明な取引ができているとは言えません。

 

アート評価の「民主化


しかし、その構造も崩れているのではないかと徳光氏は指摘しています。

SNSが発達している今、アートの評価も「民主化」「大衆化」し始めているからです。

一握りの美術評論家やオークション会社が価値の評価付けという特権を独占するのではなく、大衆に支持されたアーティスト、大衆による評価がアートの価値を決めるということです。
アートの価値を一般大衆で共有することができれば、よりアートは一般市民に寄り添うようになるでしょう。もっとも、美術評価の専門性を見捨ててよいというわけではなく、一定の評価方法を学ぶ必要、すなわち美術教育の体系化・一般化も必要となるでしょう。

 


本書ではアート作品を購入するときの心得についても解説されています。アート作品を購入する場所であったり、購入すべきアーティストの見分け方等、最初に頭に入れておくべき、ざっくりとした指針として興味深い視点です。
アート購入は専門的知見がないと取り組みにくいところもあるので本書だけを読んで購入できるようになるとは思いませんが、「こういうことを念頭に入れておけばよいのね」とギャラリストと話すときのきっかけ程度にはなるかもしれません。
また、10万円程度で作品が購入でき、コレクションのとっかかりになるようなおすすめ注目アーティストも紹介されていて、とても参考になりました。


アート業界の核心的なところを平易な文章で書かれていて、とても読みやすい本だと思いました。
ご興味のある方は、ぜひお手にとってみてくださいね